――フランスとイタリアに見る、観光制御という選択
1|「見せるほどに守れなくなる」という矛盾

文化資産は、観光にとって最大の魅力である一方、最も脆弱な存在でもあります。世界的な観光大国であるフランスやイタリアでは、この矛盾が早い段階から意識されてきました。多くの人に開くことで価値が高まる一方、過度な集中は劣化や混乱を招く。そのバランスをどう取るかが、長年の課題となっています。
両国に共通しているのは、「すべてを無制限に公開する」という考え方から、段階的に距離を置いてきた点です。文化資産を観光のための資源としてだけでなく、守るべき公共財として位置づけ直す動きが、2010年代以降、徐々に強まっていきました。
2|フランスとイタリアが進めてきた制御のプロセス
フランスでは、主要美術館や歴史施設を中心に、入場時間の指定制や事前予約制が広がりました。これは単なる混雑対策ではなく、来訪者の体験の質を保つための措置でもあります。ルーヴル美術館などでは、ピーク時間帯の集中を避ける設計が進められ、観光動線そのものを調整する発想が取り入れられています。
イタリアでも同様に、2010年代半ば以降、歴史都市を中心に入場制限や動線管理が本格化しました。ヴェネツィアでは、日帰り観光客の流入が市民生活に与える影響が問題視され、来訪者管理の議論が継続的に行われています。これらの取り組みは、UNWTOや各国政府の文化・観光レポートでも、文化資産を守るための観光制御の代表例として整理されています。
重要なのは、これらが短期間で完成した制度ではないという点です。試験的な導入、反発、修正を繰り返しながら、時間をかけて受け入れられてきました。

3|文化資産の制御は「制限」ではなく「再配分」
フランスやイタリアの事例から見えてくるのは、制御が必ずしも観光の縮小を意味しないということです。むしろ、時間や場所、体験の分散を通じて、文化資産への負荷を軽減し、結果として観光体験の質を高める方向へと向かっています。
文化資産は、多くの人に見せるか、守るかという二者択一ではありません。どのタイミングで、どの程度の人数を受け入れるのか。その設計を丁寧に行うことで、観光と保全の両立が模索されています。
この視点は、日本にとっても他人事ではありません。歴史的建造物や景勝地を多く抱える日本でも、同様の問いが今後より明確になると考えられます。
DCMの取り組みについて
観光をめぐる課題は、旅マエ・旅ナカ・旅アトといった区分をまたいで現れます。それぞれを個別に見ているだけでは、全体像が共有されにくいのも事実です。
文化資産をめぐる観光の課題は、単なる入場制限やシステム導入だけで整理できるものではありません。観光振興、保全、地域生活といった複数の視点を行き来しながら、議論を重ねていく必要があります。
DCMでは、こうした国内外の事例や議論を整理し、自治体や事業者、関係するDX・IT企業の間で共有するための視点づくりを行っています。一つの正解を提示するというよりも、関係者が共通の前提を持つための土台を整えることが重要だと考えています。
📩 お問い合わせ:info@dcmjapan.com
次回予告
次回は、韓国・英国の事例を手がかりに、デジタル施策と制度設計の関係について整理していきます。
2026年4月1日

