【DCMコラム】日本の観光をひも解く:インバウンド回帰の“いま”を読む - (第5回)デジタルは観光をどこまで変えられるか

【DCMコラム】日本の観光をひも解く:インバウンド回帰の“いま”を読む - (第5回)デジタルは観光をどこまで変えられるか

――韓国と英国に見る、制度とDXの接続点

1|デジタルは制度と接続されて初めて機能する

前回は、フランス・イタリアの事例をもとに、文化資産を守るための「制御」という考え方を整理しました。そこで見えてきたのは、「どのタイミングで、どの程度の来訪者を受け入れるのか」という設計が不可欠であるという点です。

本稿では、その設計を実際に機能させる手段としての「デジタル施策」に焦点を当てます。観光DXという言葉は広く使われていますが、日本ではしばしば「ツール導入」そのものが目的化している側面があります。予約システムや混雑可視化、アプリ開発などの取り組みは増えている一方で、それらが現場の運用や制度と接続されず、結果として十分に活用されていないケースも少なくありません。

デジタルは単体で機能するものではありません。「誰を、いつ、どのように受け入れるのか」という制度設計が存在し、その運用を支える形で初めて意味を持ちます。この順序が逆転すると、どれだけ高度なシステムを導入しても、現場では使われないまま形骸化してしまいます。

2|韓国・英国に見る「制度が先、デジタルが後」の構造

この点において、韓国と英国の取り組みは示唆的です。

韓国では、観光・交通・決済といった複数の要素を連携させる動きが民間主導で広がっています。例えば、交通系ICカードと決済機能を一体化したサービスが外国人観光客にも普及しており、移動から消費までをひとつの手段でまかなえる利便性が高まっています。こうした動きは、制度として上から設計されたものというよりも、サービス間の接続が実態として進んできた結果ですが、来訪者の行動に沿った体験設計という観点では参考になる事例です。

また、英国では、大英博物館をはじめとする主要文化施設において、事前予約や時間指定入場を推奨する運用が広がっています。強制ではなく、あくまで推奨にとどまる施設も多いですが、「いつ、どの程度の来訪者を受け入れるか」を意識した設計が現場に根付きつつあり、デジタルがその運用を支える手段として機能しています。

このように、両国に共通しているのは、「まず制度があり、その運用を支える形でデジタルが導入されている」という点です。デジタルを起点にするのではなく、あくまで設計の一部として組み込まれているため、現場での実効性が担保されています。

一方、日本では制度設計が曖昧なままデジタル施策が先行し、結果として個別最適にとどまるケースが多く見られます。各地域や事業者が独自に取り組むことで、全体としての接続が弱くなり、利用者にとって分かりにくい構造が生まれています。

最近では、中東情勢の緊張をはじめ、国際情勢の変化によって観光需要が大きく変動する場面が増えていますが、航空路線の見直しや渡航リスクの高まりは、特定地域からのインバウンド需要を急激に変化させます。特定市場に依存した構造は、こうした外部要因の影響を受けやすいため、需要の急変にも対応できる柔軟な制度設計と運用が求められています。

3|観光DXとは「制御を実装する設計」である

韓国・英国の事例から見えてくるのは、観光DXの本質が「ツール導入」ではなく、「制御を実装する設計」にあるという点です。どこに人を集め、どこで分散させるのか。どのタイミングで受け入れ、どこで制限をかけるのか。こうした判断を制度として定義し、それを現場で機能させるための手段としてデジタルが存在します。順序はあくまで「設計が先、デジタルが後」です。

日本では、観光需要の回復とともに混雑や偏在といった課題が再び顕在化していますが、その対応は現地での対症療法にとどまりがちです。旅マエの段階を含めた全体設計が十分に行われていないため、同じ問題が繰り返される構造になっています。

今後は、デジタル施策を単体で捉えるのではなく、制度設計や運用と一体として位置づけ、観光全体の構造を再設計していく必要があります。それが結果として、来訪者の体験価値を高めると同時に、地域の持続可能性にもつながっていきます。

DCMの取り組みについて

観光における課題は、単一のツールや施策で解決できるものではありません。制度、運用、デジタル、そして関係者の役割分担を含めた全体構造として整理することが求められます。

DCMでは、こうした国内外の事例や議論を整理し、自治体や事業者、関係するDX・IT企業の間で共有するための視点づくりを行い、関係者が共通の前提を持つための土台を整えることが重要だと考えています。

📩 お問い合わせ:info@dcmjapan.com

観光DX、関係企業との連携に関するご相談は、DCMまでお問い合わせください。

次回予告

次回は、モントリオールとヘルシンキの事例を手がかりに、観光を「生活者の視点」から設計するとはどういうことかについて整理していきます。

2026年5月1日