――旅マエ意思決定から読み解く、観光DXの現在地
1|人は「情報」ではなく「確信」で旅先を決めている

訪日客は、日本に関する情報を網羅的に比較したうえで旅先を決めているわけではありません。実際の意思決定は、もっと現実的で感覚的なものだといえます。重要なのは情報量の多さではなく、「ここなら失敗しなさそうだ」「この行程なら無理がなさそうだ」といった確信が持てるかどうかです。
写真や口コミ、評価、地図上の位置関係、周辺環境などが一貫して示されていると、人は安心します。逆に、情報が断片的で全体像がつながって見えない場合、魅力があっても判断は先送りされがちです。旅マエの段階で行われているのは、比較というよりも「不安を減らすプロセス」だといえるでしょう。
こうした背景から、観光庁の施策においても、店舗や施設単位での情報整備手段として、Googleビジネスプロフィールの活用が示されています。
2|旅マエの意思決定は、すでに分断されている
ここで、日本の観光が抱える構造的な課題が見えてきます。国や自治体の観光施策は、国・地域単位で語られることが多く、マクロな魅力やストーリーを伝えることに主眼が置かれています。一方で、旅行者が求めているのは、より具体的で行動に直結する情報です。
「この場所は混むのか」「移動にどれくらい時間がかかるのか」「この時間帯でも食事ができるのか」といった時間軸・行動軸の情報が見えないままでは、「日本は魅力的だ」という評価と、「では、どこに行くか」という判断が結びつきません。
その結果、訪日人数は増えても、行動や消費は限られたエリアに集中しやすくなります。旅マエの意思決定が分断されたままであることが、混雑や偏在を生み出している側面もあります。
こうした課題を背景に、京都市では、特定エリアへの集中を前提とした対応から、来訪前の情報提供や行動分散を意識した取り組みへと、施策の重心を移しつつあります。
観光客数の抑制だけでなく、混雑時間帯やエリアの可視化、周辺地域への誘導などを通じて、旅マエの段階で行動の選択肢を提示しようとする動きです。
JNTO(日本政府観光局)の国別・市場別統計によると、訪日市場の一つである中国では、旅マエから旅ナカ、旅アトまでを一気通貫で捉えた行動様式が見られます。旅前の情報接触、滞在中の行動、帰国後の購買までを、連続した流れとして捉える設計が進められており、意思決定と消費が分断されにくい構造が形成されています。
こうした動きの中には、決済ネットワークを起点に、旅前・旅中・旅後の行動を横断的に捉えようとする試みも含まれます。
例えば、UnionPay(銀聯)を通じた取り組みでは、決済という行為そのものが、単なる支払い手段にとどまらず、行動や購買と接続され、旅全体の設計に組み込まれています。 重要なのは、特定の国や手法を模倣することではありません。旅前・旅中・旅後が分断されていない設計が、実際に機能している例が存在するという点です。

3|観光DXとは「作ること」ではなく「つなぐこと」
こうした旅マエの意思決定を前提に、海外では観光DXの捉え方も変化しています。例えば、2017年に欧州委員会(European Commission)が公表した観光政策に関するレポートでは、観光施策において新たなデジタルツールを増やすことよりも、既存の情報や動線を整理し、旅行者の意思決定に伴う摩擦を減らすことの重要性が指摘されています。
実際、欧州の主要都市やシンガポールなどでは、新しいアプリやサービスを次々と追加するのではなく、既存の情報や動線を整理し、旅行者が迷わず行動できる環境づくりに重点が置かれています。
これは、日本が技術的に遅れているという意味ではありません。むしろ、日本は個別の取り組みや技術要素は豊富である一方、それらを旅マエの意思決定に沿って再編集する視点が弱い、という構造的な課題を抱えています。 重要なのは、すべてを自前で構築することではありません。旅マエの意思決定を起点に、どの情報を、どの順番で、どのDX・ITサービスと組み合わせるのかを設計し、必要に応じて外部企業と連携していくことが求められています。
DCMの取り組みについて
DCMでは、旅マエの意思決定を起点に、情報、動線、決済、受け入れ体制などを横断的に整理し、自治体や事業者、DX・IT企業と連携しながら、実装に向けた設計を支援しています。
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旅マエ・旅ナカ・旅アトを通じた観光構造の整理や、キャッシュレス・DXをめぐる論点整理、関係企業との連携の考え方についてのご相談は、DCMまでお問い合わせください。
次回予告
次回は、訪日客が実際に日本を訪れた後の「旅ナカ」に視点を移し、ストレスフリーな観光体験とは何かを整理していきます。
2026年2月1日

