(1) 紙の商品券が抱えてきた三つの限界

地域振興策の定番として、紙の商品券は長い歴史があります。プレミアムを付け、一定期間に地域でお金を使ってもらう──そのシンプルさは、今も強い魅力です。
一方で、現場の担当者に話を聞くと、紙の商品券には共通した限界が見えてきます。第一に、「どの店で・誰が・何に使ったのか」まで追い切れないこと。回収された券を集計しても、せいぜい業種と金額レベルの“ざっくりした傾向”しか分かりません。
第二に、事務負荷が高く、継続しづらいこと。券の印刷・配布・回収・換金、さらには不正防止のための管理と、担当者の手作業がどうしても増えてしまいます。結果として、「担当者が替わるたびに大変さがリセットされる施策」になりがちです。
第三に、キャンペーン終了と同時にノウハウが途切れがちなことです。どの施策が効いたのか、どんなお客様がリピートしたのかが十分に残らないため、翌年度も「ほぼ同じ設計で繰り返す」ことになってしまいます。こうした構造が、「大きな割引やプレミアムを付けても、地域としての学びがたまりにくい」という課題につながっています。
(2) デジタル化で変わる“設計と振り返り”の当たり前
こうした課題に対して、地域通貨やデジタル商品券は「紙の商品券のデジタル版」にとどまらず、設計と振り返りの前提そのものを変える可能性を持っています。
まず、利用データが自動的に蓄積されること。発行・チャージ・利用・残高といった情報が時系列で残るため、「どのエリアでどの業種に、いつお金が動いたか」を細かく確認できます。例えば、「平日は地元の方の生活消費、週末は観光客による飲食利用が多い」といった傾向が、感覚ではなく数字で見えるようになります。
次に、キャンペーンごとに設計を“トライ&エラー”できることです。有効期限やプレミアム率、対象店舗、ポイント還元の条件などを、データを見ながら毎年度チューニングできます。紙のときには変えるだけでも大仕事だった設計変更が、デジタルなら現実的な労力で実行できます。
さらに、複数の施策をまたいで“使い回せる基盤”を作れることも重要です。一度導入した地域通貨やデジタル商品券の仕組みを、観光キャンペーン、子育て支援、移動支援、健康ポイントなど、別の事業と組み合わせていくことができます。ここまでくると、それは単なる「商品券事業」ではなく、地域OSを構成するパーツの一つになっていきます。

(3) 単発事業から“地域OSの入口”へ切り替えるためのチェックポイント
では、紙の商品券からデジタル地域通貨へと舵を切るとき、何に気を付ければよいでしょうか。キーワードは、「単発イベントではなく、地域OSの入口として設計する」という視点です。
企画段階では、少なくとも次の4点をチェックしておくと、後々の“使い回しやすさ”が大きく変わります。

最初から完璧なOSを作る必要はありません。小さく始めつつも、「この仕組みを地域OSの入口に育てていく」という合意が関係者の間で取れていれば、多少の試行錯誤は“投資”として位置付けられます。
大切なのは、地域通貨・デジタル商品券を一度きりの事業として設計するのか、それとも今後の地域OSの入口として位置付けるのか、という考え方の違いです。その前提が共有されているかどうかで、合意形成のスピードも、将来の選択肢の広がり方も大きく変わってきます。
本連載では、この「入口設計」の視点を土台に、次回以降、民間の商圏づくりや観光・MaaS、公金収納・B2B決済といった具体的なテーマを掘り下げていきます。
次回予告
次回は、「独自ペイで商圏をデザインする ─ 百貨店・駅ビル・商店街の“ミニ経済圏”をどう作るか」をテーマに、民間事業者が独自ペイやポイント、アプリを組み合わせて商圏を設計する考え方を取り上げます。地域通貨・デジタル商品券との連携パターンも含めて、商業エリア全体を“ひとつのOS”として見る視点を整理します。
2026年2月16日

