QRコードか、NFCか。決済手段の選択は、技術力ではなく文脈に依存する
1.QRとNFCの違いは「技術」より「背景」にある

キャッシュレス決済を支える技術には、大きく分けてQRコード方式とNFC(近距離無線通信)方式があります。前者はスマホでコードを読み取る/表示する形式、後者は非接触ICによる「タッチ式決済」です。
技術的には、NFCのほうが高速・セキュア・非接触でUXに優れるとされ、Apple Payや交通系ICカードなどに広く採用されています。一方、QRコードは汎用性と導入コストの低さから、特に中小規模店舗や発展途上国において圧倒的な広がりを見せています。
つまり、どちらが優れているかという議論ではなく、“その地域・その市場にとって最適かどうか”が選択を左右しているのです。
2.なぜ日本ではQRコードが広がったのか?
日本はSuicaやiDなどNFCインフラの先進国でありながら、PayPay・楽天ペイ・d払いを筆頭にQRコード決済が一気に普及したという、ある意味“ねじれ”た状況にあります。
その背景には、いくつかの要因が重なっています:
- NFC決済端末の導入コストが高かったため、中小店舗では普及が進まなかった
- 政府によるキャッシュレス推進事業(例:ポイント還元)がQRコード型を中心に展開された
- スマホ保有率の高さとコード読み取りに慣れたユーザー習慣(LINEのQR友達追加文化など)
さらに、QRコードはクラウドベースの認証・処理がしやすく、端末依存度が低いため、導入のしやすさも追い風となりました。特に地方や個人経営の店舗では、「QRしか使えない」が「導入できた」と同義になるケースも多いのです。
3.アジア、欧米、そして日本──決済文化の地政学
アジアでは、中国やインドを中心にQRコードが圧倒的シェアを誇っています。これは、もともと銀行口座普及率が低かった地域に、WeChat PayやAlipayがスマホ決済+個人間送金という形で一気に浸透したことが大きな要因です。
一方、欧州ではNFCが主流です。Apple PayやGoogle Payの普及に加え、VISA・Mastercardによる非接触対応カードの標準化が進み、スーパーや交通機関でもスムーズに利用できます。
このように、決済技術の浸透には「金融インフラの前提条件」「店舗側の設備環境」「政策支援」などが深く関係しており、一概に「どちらが正解」とは言い切れません。むしろ、各地域の“現場の最適解”として技術が選ばれていることが、グローバルな比較から見えてきます。
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次回は、「電子レシート/スマートレシート」をテーマに、“支払いの後”のUXがどう変わってきているかを解説します。紙のレシートが消える日は、すぐそこに来ています。
2025/07/16